煮干しの解剖資料室

煮干の解剖 体験マニュアル

(ご注意:解説の参考として生のカタクチイワシの解剖写真を含みます。)

これは児童生徒用を意識して作ったマニュアルではありません。まず解剖を体験していただくための、大人(教師)用として作ったマニュアルです。何匹か試すと習熟できると思います。 授業にかける場合は,授業のねらい,学年などに応じて,観察してもらう器官を絞ってください。

参考  kobaの独断と偏見と経験による難易度ランク
☆基本(低学年でも)  ☆☆中学生なら   ☆☆☆高校生なら   ☆☆☆☆マニアック

全体の流れ

1.全体の外観をながめます。

煮干し全身

・白い紙の上で作業すれば後片付けが楽。こまかいものも見つけやすいです。

・解剖は,中身をバラバラにすることだと思ったら大間違い。外側からの観察でもいろいろなことがわかります。

2.中身を見る

2-0 まず頭と胴体とに分けます。

2-1 頭を割って開き目や脳,口の仕組みを見ます。

2-2 胴体を背開きにして内臓や骨、筋肉を見ます。

さあ解剖してみよう

1.外観…観察の注目ポイントは、頭,体色,口,目玉,ひれ,うろこ。

カタクチイワシの頭は大きくて,ほぼ4頭身。大きな口,白い目玉が目立ちます。ひれもさがしてみましょう。

関東ではセグロイワシと呼ばれるくらいで,背中がわが青黒いのが特徴です。ぴかぴか光るうろこも残っているかもしれません。

では,頭部→胴体の順で、くわしく見ていきましょう。

煮干し頭部

目(水晶体/難易度☆ 脂瞼/難易度☆☆☆☆)

目は二重丸のように見えます。まん中の白い玉が,レンズの役目をしていた水晶体です。カタクチイワシの眼球は,底の抜けたお椀のようなうすい骨でできたカバーにはいっていて,表面には脂瞼(しけん)という透明な蓋がついています。二重丸の外側の丸は,脂瞼の縁です。煮干しでは,脂瞼の内側にあったゼラチン質の部分が乾いて,内側にあった球形のレンズ=水晶体に貼りついています。

水晶体は透明(上)と煮干しの水晶体(下)

水晶体は,生きてきたときはその名の通り,水晶のように無色透明でしたが,煮たために表面のたんぱく質が白く変化しています。水晶体の細胞に含まれる透明なたんぱく質クリスタリンは,かなり熱に強いため,取り出して裏側を見ると透明感が残っていることもあります。人間の水晶体は凸レンズのような形で、レンズの厚みを調節してピントあわせをしていますが、魚は球形の水晶体そのものを動かして網膜からの距離を変え、ピントをあわせています。また,人間の場合は,水晶体の前に角膜があり,ここでも光が屈折しますが,魚の場合は水晶体を護っている膜状の部分も水と屈折率が等しいため,事実上水晶体だけが屈折器としてはたらいています。
生のカタクチイワシでは,とくに水晶体が出っ張っているようには見えません。しかし煮干しでは,眼のまわりが干からびているため水晶体の位置が頭蓋から飛び出していることがわかります。視野は前後左右上下に広いと言われています。

口(難易度☆)

口を開いた生カタクチ

上下左右に大きく開く口です。写真は生の魚の口を開かせたところ。あとから内部観察でもくわしく見ます。プランクトンをひっかける「さいは」が見えています。

えらぶた(難易度☆)

開いたり閉じたりします。カタクチイワシは,速く泳いでいるときは,口もえらぶたも開いています。前進することで水が強制的に口からはいり,開いたえらぶたを通じて,えらの周囲をくぐりぬけて外へ流れます。

鼻孔(難易度☆☆☆)

生カタクチ鼻孔

鼻は口吻の上に左右一対ありますが,煮干しでは,口吻の先が壊れていることも多く,見つかりにくいかもしれません。片側に小さい孔が2個ずつあって,中を水が通り,においを感じるらしいです。(写真:生カタクチ頭部、鼻孔上下に小さい穴がみえる)

側線(難易度☆☆☆)

アジなど多くの魚では,体側に頭のつけねから尾びれにかけて点線模様が見えます。側線です。この点線の内側に神経が分布する管状のつくり(側線器)があり外とつながっていて,水圧センサーになっています。カタクチイワシでは,体側にはこの模様は見えず,えらぶたの上や,眼窩の上など頭部に見られます。

体の色

カタクチイワシを関東地方ではセグロイワシと言います。背側が青黒い色をしています。群泳する魚なので,海面を見降ろしながら獲物をねらう鳥類などからは,群れが,大きな動物の影のように見える効果があると言われています。また,カタクチイワシをねらう低層魚から見ると,腹側が銀白色であることは,光る海面を背景にして目くらましの効果があるのでしょう。

ひれ

魚類には,足はなく,ひれがあります。 煮干しでは全部が残っているとは限りませんが,数匹をよく見較べると,ほとんどのひれが見つかります。

ひれの名前

うろこ

ぴかぴか光っているのはうろこです。本来は全身にびっしりついていたのですが,うろこも加工の途中で,大部分が落ちてしまいます。

うろこ

煮干しのうろこをはがすと,銀色の皮膚の表層が貼りついていることが多いのですが,うろこ自体は,無色透明です。この銀色の部分の成分はグアニンです。細胞内のグアニンの結晶が光を乱反射してあの銀白色を作り出します。

真珠の輝きの成分も同じものです。うろこの1枚1枚も,魚の成長とともに大きくなるので,ルーペなどで見ると年輪状の模様が見えます。 写真は,生のカタクチイワシのうろこ。うろこの模様は,魚の年齢を知る手がかりの一つです。

頭と胴を割る

2.中身を見る

まず,頭と胴体をわけてしまいます。

2−1 頭の部分から見ましょう

頭の真上から見ると、角張って平らなところがありますが、この部分のうしろあたり(尾側)が頭蓋骨です。

平らなところに爪をあてて、開くように頭を二つに割ってみましょう。 頭の「開き」をつくる感じです。中身が片方に寄ってしまっていてもかまいません。脳が見やすいのでこの割り方がおすすめです。

にぼしを割る

背開きにした頭の内側を見ましょう。黒く見える眼の裏側、赤茶色のえらなどが目につきます。

にぼしの頭

眼の裏側

目

黒いのは網膜の裏側です。眼窩(がんか=目玉がはいっているくぼみ)を裏側から見ていることになります。水晶体の奥には網膜があって,網膜につながる視神経はこの黒い眼球から出て脳につながっています。(頭全体の写真右上の神経は視神経ではなく鼻からの神経と思われます。)

脳(難易度☆)

脳

頭蓋骨の中に,うす茶色のやわらかい脳がはいっています。左右どちらかにくっついているので,見つけたらそっとつまようじなどで取り出してみましょう。
いちばん大きなふくらみが中脳で、小脳、延髄もつながっています。大脳は小さすぎて目立ちません。中脳は視床とも言われる部分で,視覚にかかわる情報が集まるところです。しっぽのようになっているところが延髄です。ここから背骨に沿って走る脊髄という神経の束につながります。

脳と脊髄

耳石(難易度☆☆☆☆)

耳石

頭蓋骨のとなりに、1oくらいの真っ白で細長くて平たいゴマ粒のようなものがあったら、これは耳石(じせき)といって、魚の平衡感覚に関係のあるつくりです。魚の耳は,人間のような外耳(耳殻や耳の穴,鼓膜)はありませんが,内耳の部分は脳のすぐ隣にあって,頭部の側線器などとつながっています。内耳には,耳石と言われる炭酸カルシウムのかたまりが入っています。姿勢の変化で物理的に神経を刺激して平衡感覚をつくるはたらきがあるそうです。これも魚の成長とともに大きくなるため輪のような模様が1日に1個でき、その模様が周年的にも変化するため魚の年齢がわかるそうです。ゴマ粒型の耳石は左右に1個ずつあります。頭を割るときに落ちてしまうこともあるので、見つけるのは少し難しいかもしれません。

えら(難易度☆)

えらは、赤茶色のくしのようなひだが重なっているようにみえます。えらは毛細血管のカーテンのようなものなので,血液の赤茶色が残っています。4枚のえらが左右対になって重なっています。 海水がえらを通り抜けるときに、水に溶けている酸素を血液の中に取り入れたり、いらなくなった二酸化炭素や老廃物のアンモニアを捨てたりします。この血管はひだのもとの弓のような骨(鰓弓)のところで心臓につながっています。そのため頭と胴体を切り離すとき心臓がえらの下にくっついてきていることがあります。

さいは(難易度☆)

えらとさいは

えらは、弓のような形の骨にくっついています。この骨の反対側には白いくしの歯が並んだようなものもくっついています。これは「さいは(鰓耙)」という名前の部分で、口にはいってきた水の中からえさのプランクトンをこしとる役目をしています。
水は、「さいは」と「えら」を順に通り抜けて、えらぶたから外へ出て行きます。このとき、魚は、さいはにひっかかったえさだけを飲み込むことができるのです。

あたま

2−2 胴体を見ましょう

胴体の部分で見られるもの…(☆は難易度)
骨☆、筋肉☆、卵巣☆☆☆,精巣☆☆☆,消化管の各部位( 食道☆☆☆☆,胃☆,腸☆☆☆(幽門垂☆☆☆☆をふくむ)) 肝臓☆,心臓☆,血管☆☆☆,腎臓☆☆☆☆

胴体を背開きにします。

胴体を背開き

いろいろな内臓の器官がすべて重なり合ってはいっているので,ちょっと見ただけでは何だかごちゃごちゃしています。

いろいろな内臓の器官

消化管は,本当は,口の奥につながる食道 → 胃 → 十二指腸 → 腸 → 肛門 と上の図のようにつながった管ですが,煮干しでは,まとめて取り出すのは,まず無理です。
下は生のカタクチイワシの解剖写真です。

カタクチ解剖メス名称つき

食道や胃は,内部に隠れていることが多いので,開いただけでは普通は見えません。消化管からの栄養を蓄える肝臓は,胃を覆うような位置にあります。また,胃の出口である幽門からすぐの十二指腸部分には,先の閉じた管(幽門垂)がにょきにょき生えていて,腸や胃を覆い隠しています。

肝臓(大きい写真)

煮干しの内臓

内臓は、一見するとなんだかごちゃごちゃしていますが、一番目に付く大きな黒いかたまりが肝臓です。血液が多いところは黒い色になっています。

心臓

肝臓

肝臓より頭に近いところ、のどのとがったあたりに心臓があります。肝臓とそっくりの黒い色で、ピラミッドのような形です。えらの骨のところでつながっているので頭の方にくっついてとれていることもあります。一心房一心室。尾がわに心房、頭側に心室という順に斜めに並んでくっついていてこのように見えているそうです。

肝臓につつまれるようにキャラメルのような色、うすい茶色の胃がはいっています。見えないときは、黒い肝臓のかたまりを割ると中にうす茶色の袋のようなものがあらわれます。これが胃です。

煮干しの内臓

煮干しの胃の内容物

時間があったら取り出した胃を水につけてふやかし、切り開いてみましょう。中に小さなエビなど未消化のエサが残っていることがあります。顕微鏡で観察すると、見分けるのは難しいのですが、プランクトンの破片なども見えます。

腸(難易度☆)

腹びれの付け根の近くに肛門があり、腸壁は見分けることはできませんが、使った煮干しによっては腸の形に白っぽいひも状のいわば、「糞のもと」が残っていることもあります。

煮干しの開き

卵巣・精巣(難易度☆)

肝臓と胃の他に、卵巣(たまご)や精巣(しらこ)が見えるかもしれません。たまごはタラコのような形で赤茶色、しらこは薄茶色でつぶれたようにはりついていることが多く、両方とも内臓をはさむような位置に1対で一腹になっています。

卵巣・精巣

背骨や筋肉、神経も見えます。

背骨

小さな骨がたくさんつながってできています。さらに背骨にそって尾までつながっている黒っぽい筋は血管(難易度☆)です。胴体の上のほうでは、背骨の内側にそって黒っぽいかたまりがはりついたようになっています。この部分に腎臓(難易度☆)があります。

背骨

神経(難易度☆)

背骨

背骨の背側にそって良く見ると、白い糸のような脊髄神経が見えるかもしれません。見えないときは、取り出した背骨を軽く折って引っ張る(カニの脚の身を食べるときの要領)と神経が抜けて出てくることもあります。

筋肉

私たちが食べる魚の身と呼ぶところは筋肉です。裂いてみると細長い繊維状のものが集まってできていることがわかります。
もともと、煮干しは料理に使うダシをとるために作られたものです。煮干しの身をかみしめるとうまみがあって、おいしいですよね。煮干しのうまみは筋肉細胞中のATPが変化してできたイノシン酸という成分の味です。

筋肉

お疲れ様でした! これで、一通りの作業はおしまいです。
いろいろなつくりを見分けられるようになりましたか?
資料のカラー写真も参考にしてみてね。
あとは、残骸?をおいしくいただいて、食物連鎖を実感しましょう。